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東京地方裁判所 昭和45年(ワ)5739号 判決 1974年7月15日

原告

ロジヤー・ケント・スコツト

右訴訟代理人弁護士

吉川孝三郎

伊藤まゆ

三宅能生

被告

右代表者法務大臣

中村梅吉

右指定代理人

武田正彦

外五名

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  申立

一、原告

1  被告は原告に対し、金九六万円およびこれに対する昭和四五年六月二五日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  第1項につき、仮執行宣言。

二、被告

1  主文同旨

2  仮執行免脱宣言

第二  主張

(請求原因)

一、事実経過

1 原告はアメリカ合衆国の国籍を有する外国人であるが、昭和四四年九月四日、日本において英語会話教師として稼働する目的をもつて沖繩から客船「とうきよう」丸で来日し、東京港内の同船上で入国(旅行)目的を「TO TEACH」と記載して上陸の申請をしたところ、入国審査官関根重男は同日同船上で右申請につき審査した結果、原告が日本における雇傭関係を証する資料として提示した国際教育振興会日米会話学院(以下、日米会話学院という。)、ソニー企業株式会社との間の各雇傭契約書の記載に疑義があり、申請にかかる在留資格が虚偽のものでないことが認められないとして出入国管理令(以下、単に令という。)七条一項二号に規定する上陸のための条件に適合していないと認定し、原告を特別審理官中村茂に引渡した。

2 同特別審理官は同月四、五日の両日に亘つて同船上で口頭審理を行い、ソニー企業株式会社、ユネスコ美術連盟および日米会話学院の責任者の出頭を求めて証人尋問をしたうえ、申請にかかる在留資格が虚偽のものでないことが認められたとして、令七条一項二号所定の上陸のための条件に適合しているものと認定し、令一〇条六項により原告の所持する旅券に在留資格四―一―一六―三(令四条一項一六号、昭和二七年外務省令一四号「特定の在留資格及び在留期間を定める省令」一項三号に該当する者として法務大臣が特に在留を認める者としての在留資格をいう。以下同じ)、在留期間一八〇日の上陸許可の証印をしようとしたが、原告は右一八〇日の期間を不服としてこれを拒絶した。

3 東京入国管理事務所審査第二課長花村吉人は、同月六日、同船上で原告と在留期間について話合いをしたが、同日午前一一時頃、話合いを打切り下船した。

4 そこで、原告らは友人らと共にバスターミナルへ向つたところ、入国警備官は原告が令二四条二号の上陸許可の証印を受けないで上陸した者に明らかに該当し、かつ収容令書の発布をまつていては逃亡のおそれがあると信ずるに足りる相当の理由がある場合にあたるとし、同月六日午後零時四〇分、令四三条により原告を要急収容し、その理由を主任審査官に報告し、収容令書の発布を請求した。主任審査官川原謙一は右要急収容を是認して収容令書を発布した。入国審査官は同月八日、違反調査をした入国警備官から原告の引渡を受け、同月一一日に審査を行い、原告が令二四条二号に該当すると認定し、その旨原告に告知した。原告は同月一二日特別審理官に対し口頭審理の請求をし、特別審理官佐藤秀雄は同月一七日原告に対し口頭審理を行つた結果、入国審査官の前記認定には誤りがないと判定し、その旨原告に告知した。原告は同日、右判定について法務大臣に対し異議の申出を行つたところ、法務大臣は同年一〇月九日異議申出は理由がない旨裁決し、その旨主任審査官に告知し、主任審査官川原謙一は同月一四日原告に対し前記裁決を告知するとともに退去強制令書を発布した。入国警備官は、同日後記のとおり仮放免されていた原告に対し退去強制令書を執行し、収容した。

5 外務大臣は、同月一四日右退去強制令書の発布に伴つて、原告の旅券に付与された前記昭和四三年二月六日在パリ日本大使館発行の四八か月数次有効の特定査証を取消した。

6 原告は前記要急収容により収容されて以来、同年九月一七日から法務大臣の前記裁決告知のあつた同年一〇月一四日までの間および同月一五、一六日の両日、仮放免を許されたほかは横浜入国者収容所等に収容されていたのであるが、同月一六日退去強制令書発布処分取消請求訴訟を東京地方裁判所に提起するとともに右令書の執行停止の申立をしたところ、同月一八日右退去強制令書の執行を国外送還の部分に限り停止する旨の決定がなされ、同年一一月一八日右決定は確定した。また、原告は同年一〇月二三日外務大臣を被告として査証取消処分取消請求の訴を東京地方裁判所に提起したのであるが、同年一一月二五日主任審査官に対し令五二条四項の自費出国の許可と同五四条一項の仮放免の許可を求めたところ、主任審査官は東京地方裁判所から前記執行停止決定の取消決定を得たうえで同月二八日仮放免を、同年一二月一日自費出国をそれぞれ許可した。そこで原告は同月七日アメリカ合衆国へ向けて自費出国し、なお、その後昭和四五年七月前記査証取消処分取消請求訴訟を取下げた。

<以下、事実欄省略>

理由

一原告が退去強制令書の発布を受け出国するまでの経緯

1  請求原因一については当事者間に争いがない。

2  右争いのない事実と<証拠略>を総合すると、右1において示した事実のうち、原告が要急収容されるに至るまでの経緯の具体的な事実関係は次のとおり認めることができる。

(一)  原告はアメリカ合衆国の国籍を有する外国人であるが、昭和四三年二月六日在パリ日本大使館から、その所持する旅券に東京所在の日米会話学院において英語会話教師として稼働し日本に滞在することを目的とする申請に基づく四八か月数次有効の特定査証(予定滞在期間一年)の発給を受け、同年四月一九日に来日し、横浜港において入国(旅行)目的を「TO TEACH」とし、日米会話学院との間の雇傭契約書を提示して上陸のための審査を受けた結果、在留資格四―一―一六―三を有する者と認定され、在留期間一年の上陸許可の証印を受けて上陸し、その後は日米会話学院、青山学院大学などにおいて英語会話教師をし、昭和四四年四月二八日在留期間の更新(一年)、手続をし、引き続き在留していた。

(二)  原告は右滞在の間に「外国人べ平連」に所属し、ベトナム戦争反対の集会等に参加したりなどしていたが、昭和四四年六月一二日、米国人アール・エル・レイノルズらとともに長崎港からヨット「フエニツクス」号で中国大陸に向けて出国したところ同月二〇日頃、中国大陸沿岸海上において中華人民共和国官憲から入国を拒絶されたため、同月二四日長崎港に帰港し、翌二五日、入国(旅行)目的を「TO TEACH」と記載して上陸の申請をした。

(三)  ところで、原告は中国に赴くにあたり、帰国時期が不明であつたため、日米会話学院との間において、雇傭関係を一旦終了させたうえ、後日再来日したときには再雇傭を考慮する旨互いに了承し合つていたところ、法務省入国管理当局は、右の情報を入手し、右事実関係のもとでは在留資格四―一―一六―三の実体が消滅したことになるとし、再来日、上陸の申請の際には、調査を充分に行わせる趣旨で、同年六月頃原告を「査証要経伺」として取扱うべきことを決定し、その旨関係方面に指示していた。そこで、原告の長崎港における前記上陸申請に対して入国審査官は右の指示に基づいて、在留資格の実体を重点として審査した結果、原告は日米会話学院との雇傭関係を立証することができなかつたため令七条一項二号所定の上陸のための条件に適合していないものと認め、前同日特別審査官に引渡し、特別審査官は、同日、原告に対し口頭審理を行つた結果、同一の認定に達し、その旨原告に告知した。原告は、同月二六日右認定につき法務大臣に対し異議の申出を行つたところ、法務大臣は同年七月二日、出国準備として原告に対し令一二条の上陸特別許可(在留資格四―一―一六―三、在留期間六〇日)を与える旨の裁決をしたので、原告は上陸許可の証印を受けて上陸した。しかして、原告は、その後在留資格の実体を回復するため、日米会話学院との間において再雇傭契約を結んだほか、ソニー企業株式会社等との間においても英語会話教師として稼働する旨の雇傭契約あるいはその予約を締結し、再び来日して、上陸許可を新たに取得すべく、同年八月三〇日、東京港から出国の証印を受けたうえ、当時アメリカ合衆国の施政権下にあつた沖繩に向けて出国した。

(四)  次いで、原告は同年九月四日、客船「とうきよう」丸で沖繩から来日し、東京港晴海埠頭に接岸した同船上において入国(旅行)目的を「TO TEACH」、予定滞在期間を一年として上陸の申請をした。右申請に対し、前記入国審査官は、原告が前示のとおり「査証要経伺」の取扱を受けているものであるところから、特に前示の在留資格の実体の存否に留意して審査にあたり、原告が日本における雇傭関係を証する資料として提示した雇傭契約書のうち、日米会話学院との間のものは、同年八年一八日付で、雇傭期間も同月二九日から同年九月一九日までの極めて短期間のものであり、日米会話学院と原告との雇傭関係は原告の中国行き計画とともに終了しているとの前示のような情報からみて、右契約書のみでは記載内容の真実性の立証が不充分であると判断し、また、ソニー企業株式会社との間のものは、原告に対して発給された査証の前提となつた雇傭関係とは別のものであるのみならず、作成日付が同年八月二九日であるのに雇傭期間は同年一〇月一日から一年とされていたことから、同様、右記載を信用するには足りないと考え、申請にかかる在留資格(「TO TEACH」)が虚偽のものでないと認めるには不充分であつて、令七条一項二号に規定する上陸のための条件に適合していると認定するに足りず、更に慎重に審査する必要があるものと認めて、原告を特別審理官に引渡した。

前記特別審理官は、同日同船上で口頭審理を開始し、原告が在留資格四―一―一六―三(「TO TEACH」)に適合した活動を行うかどうか調査するため、従前の在日中の諸活動について、その政治的活動をも含めて質問し、また、原告が提示した前記日米会話学院およびソニー企業株式会社との契約書の疑問点を質し、原告が他の雇傭先として付加したユネスコ美術連盟を含め、その責任者を翌日証人として尋問して真偽を確認することにして当日の手続を打切つた。なお、同特別審理官(同特別審理官は主任審査官にも指定されている。)は、上陸許可の証印ないし仮上陸の許可がないかぎり上陸することは許されない関係上、原告に便宜を与えるため、審査手続の間仮上陸の許可を与え、審理は東京入国管理事務所において行う用意がある旨告げたが、原告が右許可に伴う稼働禁止の条件を受け容れることができないというので、結局右許可を与えるに至らなかつた。

同特別審理官は翌五日、船上で口頭審理を続行し、令一〇条五項に基づき、職権でソニー企業株式会社、ユネスコ美術連盟および日米会話学院の責任者を証人として喚問し、原告との雇傭契約の成立の有無および契約内容について尋問したところ、日米会話学院との雇傭契約は、原告の中国行き計画に伴い、一旦終了したが、その後、原告の懇請により、前示契約書とおりに短期間のものとして締結したこと、またユネスコ美術連盟、ソニー企業株式会社との間においても雇傭契約はいずれも締結されており、雇傭期間は前者について六か月、後者について一年であるが、ソニー企業株式会社との雇傭関係は同年一〇月一日から開始するものであることをそれぞれ確認し、以上の口頭審理の結果に基づき、原告の申請にかかる在留資格が虚偽のものでないことは認められたが、在留期間については申請および査証に記されている一年としてはこれを認めることができず、一八〇日しか与えられないとし、右の趣旨で上陸許可の証印をする旨告げた。原告はこれに対し、前回来日したときには申請および査証のとおり一年の在留期間をもつて上陸許可が与えられているのに、今回一八〇日の在留期間をもつてしか上陸許可がなされないということは従来の在留中の政治活動を理由とする違法な差別待遇であつて認めるわけにはゆかないとして、右許可の証印のために旅券を提示するのを拒絶し、申請のとおり一年の在留期間を認めることを要求し、もし、要求が認められないのであれば、一旦沖繩に戻り、外交的手段に訴えて抗議するつもりである旨述べたが、同特別審理官は右要求を容れず、在留期間については一八〇日が当局としての最終的判断であり、後日、在留期間を更新するという方法も残されているのであるから、右許可を受けいれるか否かよく考慮するよう告げて、審査手続を終了した。

(五)  東京入国管理事務所の前記審査第二課長は、通訳を介して翌六日朝、同船上において原告に対し、一八〇日の在留期間をもつて上陸許可の証印を受けるか否か確認したところ、原告が依然として一年の在留期間の要求を固執して譲らなかつたため、入国管理当局の指示に従つて、原告に対する説得を打切り、原告に対して「バイ、バイ」といつて他の係員とともに下船した。この間、原告に対する通訳を勤めていた同課事件係長は、原告に対し、下船するようなことがあると収捕されることになるから、そのようなことをしないようにと警告を与えたうえ、下船しようとタラップにかかつたところ、原告はその傍らをすり抜けて下船し、同日午前一一時一〇分頃、晴海埠頭に上陸し、先行していた前記課長に追いすがつたが、同課長はこれにとりあわず、去つてしまつた。原告は、その後、船に戻ろうとせず、同埠頭の船客待合室内の階段付近にすわり込んだり、あるいは埠頭に出て、出迎えの学生ら支援者に向つて経過を報告したりしており、この間前記特別審理官や、前記事件係長、入国警備官らが原告に対し再三、再四帰船するよう促し、帰船しない場合には収捕される事態になる旨を告げて警告を与え、特に現場で指揮をとつていた入国警備官が一八〇日の在留期間で上陸許可を受ける余地も未だ残されている旨告げ、再考を求めたりしたのであるが、原告はこれらの説得に一切耳をかそうとせず、単に「席がないから戻れない。」とか「ポリスを呼べ。」とか言うのみで、出港時間の迫つている同船に再び乗り込む手続もとらなかつた。このような状況の下で、原告を残したまま「とうきよう」丸が出港するかもしれないと予想した原告の友人の一人が、船内に残されていた原告の荷物を原告のもとに持参している。

「とうきよう」丸は、同日正午過ぎ頃、そのまま出港し、原告が帰船する余地がもはやなくなつたので、入国警備官は、原告が形式的には勿論、実質的にも令二四条二号に該当するものと判断し、原告に対し容疑者として東京入国管理事務所まで、入国警備官とともに、任意に出頭することを再三求めたのであるが、原告および支援学生らは「ナンセンス」などと叫んで全くとりあわず、かえつて、右の支援者らが自分らにおいて原告を入国管理事務所まで出頭させると称して、原告を集団の中に囲み込んだまま、入国警備官らの近づくことを許さず、船客待合室を通つてバスターミナルの方へ移動し、これを妨げようとする入国警備官や、その援助にあたつた警察官らの職務を妨害し、折からターミナルに入つてきたバスに乗車しようとして走り出した。

このような事態に直面し、入国警備官は配置されている警備官が小数でもあり、このまま原告の身柄を多数の支援者の手に委ねていては、原告が逃亡してしまう虞があり、収容令書の発布を待つ時間的余裕もないものと判断し、同日午後零時三五分頃、警察官の援助を受けて、支援者らの妨害を実力で排除し、令四三条に該当する者として原告を要急収容して、拘束し、直ちに理由を主任審査官に報告して、収容令書の発布を請求したところ、東京入国管理事務所の前記主任審査官は要急収容を是認してまもなく収容令書を発布し、右令書は同日午後一時四五分原告に示された。

<証拠判断省略>

二以上の事実関係に基づき、原告の主張の当否について判断する。

1  上陸審査行為の違法性の有無について

(一)  上陸審査手続に要する時間について

<証拠略>によると、一般に外国人の我国への上陸のための審査手続は、円滑に行われた場合、通常五分以内程度で終了する取扱であることが認められる。

しかしながら、審査手続は外国人の上陸申請に対して当該外国人が令七条一項一ないし四号に定められている上陸のための条件に適合しているかどうかを認定するためのものであり、当該外国人も入国審査官に対し、申請にかかる在留資格が虚偽のものでないことなど条件に適合することを自ら立証しなければならない(同条二項)ものであり、在留資格は令四条一項の各号に定められているものに限定されているところである。しかして、右の各在留資格を有する者として上陸する外国人の我国に与える影響は、その活動の内容、在留期間に伴い多様であるから上陸審査の方法も、在留活動の態様、在留期間の長短等によつて相応の差を生ずるのは当然のことというべきであるし、真実の在留目的が申請にかかる在留資格に基づく在留目的と異なつているのではないかと疑われるときはそれに応じた審査が行われることも合理的であり、法の当然予定しているところである。したがつてこれらの個別的事情を無視して、上陸審査があらゆる場合につき一律に前示のごとき短時間でなければならないということはできないものというべきである。

ところで、原告のように、語学学校(各種学校)で教師として稼働しようとする者に対して与えられる在留資格は在留資格四―一―一六―三であるところ、<証拠略>を総合すると、在留資格四―一―一六―三に基づいて入国しようとする外国人については、査証発給の段階において、在外公館の査証官かぎりの判断で発給に応ずることはなく、外務省に経伺し、さらに同省から法務省に協議し、同省入国管理局において、当該外国人が各種学校において教師として稼働することを目的としているときには、特定の施設との間に有効な雇傭契約が成立しているか否か等につき調査し、その入国が我国の利益になると認め、入国を許可する方針である旨を外務省に回答した場合にかぎり、査証が発給される取扱であることおよび右のような外国人が来日して上陸の申請をしたときは、施行規則四条の二の三号の定めるところに従い、特定の雇傭先との雇傭契約書を提示して申請して申請にかかる在留資格が虚偽のものでないことを立証するものとされていることが認められる。もつとも<証拠略>によると、右のような場合には、実質的には、査証発給の際に審査した事項につき上陸審査の際に再び審査する結果となるので、上陸審査の際には煩を避けるため、法務大臣が当該外国人の入国について事前承認を与えている旨の記号を確認することにより手続の円滑化を図る取扱がなされていることが認められるが、右のような場合であつても、査証発給後、何らかの理由で上陸に際して申請されるであろう在留資格の実体が失われたのではないかとの疑いがある場合には、査証発給後であるに拘らず、上陸審査を慎重ならしめるため「査証要経伺」に指定していることが認められ、したがつて、かかる者に対する審査には当然相応の時間を必要とすることとなるのが例である。

これを本件についてみると、前示のとおり原告は日米会話学院において稼働することを目的として数次有効の特定査証の発給を受けたうえ、上陸許可を受けたことのある者であるところ、法務省入国管理当局により、原告が中国へ行くことを企てて日本を出国した際、日米会話学院との雇傭関係が終了したとの情報に基づき、将来予想される再来日の際の上陸審査にあたつては、在留資格の実体の有無について慎重に審査することを必要とするとの趣旨で「査証要経伺」とされており、しかも、先の長崎港における上陸審査においては、日米会話学院との雇傭関係を立証することができなかつたものであるのに、今回の上陸申請に際しては、日米会話学院との間の雇傭期間が一か月に満たない短期の契約書と、ソニー企業株式会社との間の雇傭期間の始期未到来の契約書を新たに提示したのであるから、右の状況のもとにおいては上陸審査に慎重を期する必要のあることはいうまでもないことであつて、前記入国審査官および特別審理官が前示のように九月四、五日の両日に亘つてなした上陸審査および口頭審理の手続はその内容において相当であり、したがつてまた不当に長時間を費したとはいい得ないものというべきである。

なお、特別審理官の行つた証人尋問は、原告の在留資格の基礎である日米会話学院以外の雇傭先についてまで行われているが、右調査は次段に説示するとおり、在留期間を定めるにあたり付随的に考慮する他の雇傭関係に関連する調査として、原告にとつてむしろ有利な手続である。

(二)  在留期間の判断について

在留資格四―一―一六―三に与えられる在留期間は三年を越えない範囲内で法務大臣が指定する期間とされており(令四条一項一六号、二項、前記省令一、二条各三号)、<証拠略>を総合すると、原告のように各種学校で教師として稼働することを目的とする場合の在留期間については、査証発給の際に審査した特定の稼働先との有効な契約に基づく雇傭関係が現に存在していることを前提とし、右雇傭期間を基準として、長期は一年を限度とし、短期は通常一八〇日を原則とすること、右以外の雇傭関係が併存するときには、当該雇傭関係を容認することが我国にとつて利益であると認められる場合にかぎり、その雇傭期間をも斟酌して決定する取扱であることが認定される。

本件において、原告と日米会話学院との契約期間は、一か月に満たず、ユネスコ美術連盟との雇傭契約の期間は六か月であり、そのほかソニー企業株式会社との間の雇傭契約は契約期間こそ一年であるが、始期は一か月先に到来するものであることは前示のとおりであり、右事実および<証拠略>によると、前記特別審理官は、ソニー企業株式会社との契約はその始期が到来していないので今回の上陸許可の際の考慮の対象とせず、日米会話学院との契約に、ユネスコ美術連盟との契約を付随的に考慮して在留期間を一八〇日と決定したものであつて、ソニー企業株式会社との関係は、将来在留期間の更新が行われるときに考慮して調整できるものと考えたものであることが認められる。

してみれば、同特別審理官の右の在留期間の決定をもつて違法ということのできないことは明らかというべきである。

原告は、各種学校教師に与える在留期間は一年とする慣習があると主張するが、前示認定のとおりであつて、右の主張事実を認めるに足りる証拠はない。

(三)  原告は、前記入国審査官、特別審理官、審査第二課長らは、原告が政治的行動を理由として「査証要経伺」の取扱を受けていたために、原告を不当に差別し、上陸をさせないか、もしくは困難にさせようとの意図のもとに前示各行為をした旨の主張をするが、右主張の失当であることは前示認定に徴し説明の要をみないというべきである。

以上のとおりであつて、右各担当官の前示各行為に関し、原告主張の違法は存しないから、原告の主張二1は採用することができない。

2  前記審査第二課長の行為の違法性の有無について

同課長の前示認定のごとき突然の下船が、同課長において「査証要経伺」である原告を退去強制するために「わな」をかける意図のもとになされたものであるとの原告主張事実は、前示認定事実に照らしてまつたく認められないのみならず、そもそも同課長の下船した行為と原告の下船、収容との間には法律上、因果関係を肯定することもできないものである。すなわち、前示認定のごとき同課長が下船するに至つた経緯からすれば、同課長が下船したのは原告に対する説得を打切つたためであると判断することは容易なことであり、かつ原告は船上において下船しないように警告され、下船後も帰船するよう重ねて警告を受けているうえ、原告は以前の手続において、仮上陸許可ないし上陸許可の証印を受けることなしに下船してはならないことを充分に理解していたものと認められるのであるから、原告が更に同課長と話合いを続行しようと考え下船したものとしても、結局、原告は同課長の態度の意味を了解していながら警告を無視し、むしろ危険を承知のうえで下船、上陸し、あえて帰船しなかつたものといわざるを得ず、そうとすれば、原告が収容されるに至つた結果は自ら招いたものというほかなく、前記課長の行為との間に関連性を認めるわけにはゆかないのである。

したがつて、原告の主張二2は採用することができない。

3  要急収容の違法性の有無について

原告は、「とうきよう」丸からの下船について前記特別審理官から承認を得ているとの事実を前提として、原告の行為は令二四条二号に該当しない旨主張する。

しかしながら、原告の下船、上陸と収容に至る経緯は前示のとおりであつて、かえつて、同特別審理官が原告に対し帰船するよう警告を与えたことが認められこそすれ、原告主張のように下船の承認を与えたことは到底認めることができない。

<証拠判断省略>

してみれば、原告の右主張はその前提とする事実において既に失当というべきであり、本件においては原告がその所持する旅券に入国審査官から上陸許可の証印を受けないで下船、上陸したことは事実関係の前提となつているところであるから、原告の行為が令二四条二号に該当することは明白といわざるをえない。

原告は、また要急収容の必要が存しなかつたとの主張をしているのであるけれども、前示事実関係のもとにおいては、入国警備官が要急収容の必要があるとした判断は充分これを是認するに足りるものというべきであつて、原告主張のごとき原告の生活状態等の事実関係は右のような急迫した事情のもとにおける右の判断にあたつては斟酌することを要求し得べくもないことというべきである。

そうとすれば、前記入国警備官が原告の行為をもつて令二四条に該当すると認定し、要急収容したことは相当であつて、右処分およびその後の主任審査官の収容令書の発布、入国審査官の認定、特別審理官の判定、法務大臣の裁決、主任審査官の退去強制令書の発布等の各処分について原告主張の事実誤認の違法は存しないものというべきである。

したがつて、原告の主張二3は採用することができない。

4  司法官憲の発する令状に基づかずに身体を拘束した行為および弁護人選任権を告知せず、選任申出を拒否した行為の過失と違法性の有無について

(一)  原告は、右各行為が憲法三一条、三三条および三四条に違反し、前記各担当官および法務大臣に憲法遵守の注意義務あるいは指揮監督上の注意義務を怠つた過失がある旨主張して損害賠償請求をするのであるけれども、右各公務員の右各行為はいずれも令の定めるところに依拠するものであり、かつ令の規定が明白に憲法に違反するものとはいい得ないから、右各公務員が右各行為をなすにつき過失があつたものとはいい難いというべきである。

そうとすれば、原告の憲法違反を理由とする損害賠償請求は、右のごとき過失を理由とするかぎりにおいては、失当であつて認容し得ないというほかない。

(二)  のみならず、右各行為が憲法の前記規定に違反するとの主張も次の理由によつて採用し得ないところである。

(1) 憲法三一条、三三条について

令所定の収容令書および退去強制令書に基づく身体の拘束は、外国人の退去強制という行政目的を達成するための手段としての行政手続というべきところ、行政手続であるとの一事のみをもつてしては直ちに被告の主張するごとく憲法の右規定の適用が排除されるとはいい難いものというべきである。しかしながら、右のごとき退去強制という行政目的が国家間において必要なものとして肯認され、それ自体憲法に反するものともいい得ない現状においては、右の目的を達成するための手段たる意義を有している行政手続に関しては、当該手続が目的に適合する必要なものであつて、手続の全体的構造において明らかに不合理と目すべき点が存在せず、かつ事後的にせよ究極的には司法裁判所による救済の方途が存置されているかぎり、右の具体的手続をいかに、定めるかについては立法府の裁量的権限に属し、法律の定めるところに委ねられているというべきであつて、右の範囲内に属する事項に関しては違憲の問題は生じないと解するのが相当である。しかして、この理は外国人の出入国に関する身体の拘束についても妥当するものというべきである。

ところで、令は、収容令書あるいは退去強制令書を主任審査官が発布するものと定めているのであるが(令三九条、四三条、四七ないし四九条)、収容令書による収容は、退去強制事由(令二四条各号)に該当する容疑のある外国人につき、身体を拘束しなければ容疑の有無についての審査のためにする出頭を確保し難い状況がある場合であることを前提とし、審査の円滑な進行のために必要な限度で、当該外国人の身体を拘束しておく手続であり、また、退去強制令書による収容は、行政上の審査手続が終了し、当該外国人について退去強制事由の存在することが認められた後において、送還先に退去を強制する前段階として暫時その身体を確保しておく手続であつて、いずれも我国の外国人に関する出入国管理行政遂行に伴つて生ずる行政的手続として、その必要性は否定し得ないところである。しかして、収容令書による拘束と併行して行われる退去強制事由の容疑についての審査は、入国警備官による違反調査、入国審査官による審査、特別審理官による口頭審理、法務大臣の裁決等、行政手続としては可能なかぎりの審査段階を設け、かつ証拠の収集、提出に関しても当該外国人の権利保護を配慮して慎重、公平な手続によつて行われるよう規定されており、これら審査手続に対応する事前、事後の保全措置ともいうべき収容令書または退去強制令書はその執行を直接行う入国警備官とは別個の職務権限を有する独任制官庁である主任審査官が、要件を審査のうえ発するものとされているのである。なお、本件のごとき要急収容は、収容令書発布前に身体の拘束がなされているのであるが、これは前示のごとき緊急の場合における特例であり、右の緊急性についても主任審査官が審査のうえ、是認し得るときにかぎり、収容令書を発布するものであるから、全体的にみれば収容令書に基づく収容と択ぶところがないということができる。しかも、これら収容令書の発布の当否については、司法判断を求めることも当然にできるのである。更に、収容は身体の自由の拘束を意味するが、前示の目的を越えるものであつてはならないことは当然であり、令六一条の七、被収容者処遇規則(昭和二六年外務省令第二一号)により、処遇には特段の注意が加えられることになつているのであつて、処遇が前示目的を越え、必要以上に外国人の自由を制限するものであるときは、司法救済を求め得ることはいうまでもないし、一定の条件下で仮放免も認められているのである(令五四条以下)。

右に述べた点を総合して判断すれば、収容令書、退去強制令書に基づいて身体を拘束することは、前示説示に照らし、立法事項の範囲に属するものとして是認すべきことであつて、憲法の前記規定に違反するところはないといわなければならない。

(2) 憲法三一条、三四条について

憲法三四条所定の弁護人を依頼する権利は、直接的には刑事手続における身体の拘束の際の適用を予定したものとは解されるが、拘禁状態において保護に任ずべき者の援助の機会と方法を保障するという右規定の実質的意義からすると、身体の自由の拘束を伴う行政手続に、行政手続であるという理由のみによつて、右規定による保障が及ばないとすることは相当でないというべきである。

ところで、収容令書による収容およびその前後の審査手続が、外国人の出入国の適正な管理という行政目的のための手続であることは前示のとおりであるが、右の審査手続は容疑者の側からみれば、身体の直接的拘束および退去強制を免れるために、退去強制事由に該当しないことを自ら立証する手続(令四六条)であるから、そのための資料を収集提出し、不利な資料を弾劾し、弁論の準備を行う等の活動をするための手段として、自己以外の特に法律専門家の援助を受ける機会を必要最少限度は保障する必要があると解するのが相当である。令は、収容された外国人について口頭審理が行われる場合、当該外国人またはその者の出頭させる代理人は口頭審理に当つて、証拠を提出し、および証人を尋問することができる旨定め(四八条五項、一〇条三項)、当該外国人が代理人を依頼し得ることを当然の前提としており、かつ口頭審理前に代理人を依頼することが禁止されていると解すべき理由はなく、当該外国人はいつでも代理人を選任する権利が与えられているものというべきであるが、右の代理人には弁護士たる資格を有する者がこれにあたることを妨げるべき事由は何ら存しないから、令所定の代理人の制度は実質的には憲法の前記規定の趣旨を満たすものと解することができるものというべきである。もつとも、令には刑事訴訟法における弁護人選任権の告知のように代理人選任権の告知に関する定はないけれども、憲法三四条は弁護人を選任する機会と方法とが実質的に保障されていることを要求する趣旨と解され、選任権の告知を定めることはより右趣旨に沿う所以ではあつても、定がないからといつて直ちに右趣旨に背反するとは解されないのみならず、<証拠略>によれば、本件において原告は弁護士三宅能生に弁護を依頼し、同弁護士は原告のため東京入国管理事務所長との間で交渉を行うなどの弁護活動をしたほか、原告に対する口頭審理への立会を求めたことが認められるから、原告は代理人の選任権のあることを告知されなかつたとしても、そのこと自体によつては何ら権利を侵害されたものでないことも明らかである(なお、右代理人の制度は行政手続による身体拘束についても適用されるものと解される「日本国とアメリカ合衆国との間の友好通商航海条約」二条二項(d)に定める要求をも最少限度は満たし得るものと解される。)。

以上によれば、入国警備官、入国審査官、特別審理官が弁護人に依頼する権利のあることを告げず、また特別審理官が弁護人選任の申出を拒絶したことは当事者間に争いがないところであるが、右各担当官の右各行為をもつて違法ということはできないというべきである。

但し、口頭審理の手続において、前記特別審理官は原告および弁護士三宅能生が同弁護士を原告の弁護人として立会わせることを要求したのに対し、規定がないとの理由でこれを拒絶し、単に令一〇条四項による知人としての立会を許したにとどまつたものであることは当事者間に争いがないところ、同特別審理官の右処置は、特別審理官としては右のごとき申出があつた場合には、右申出を令所定の代理人の申出として解し、相応の教示をして然るべき取扱をするのが事務上とるべき当然の措置というべきことは言を俟たないところであるのに、右のごとき措置をとらず、結果として代理人の選任を拒否した点において違法の謗りは免れ難いものといわざるを得ない。しかし、前示認定の事実関係によれば、原告は令二四条二号に該当するものであることが極めて明白であるといわざるを得ず、たとえ口頭審理において代理人が選任され、その活動が充分に行われたとしても、本訴訟手続に顕われた証拠以上に有利な証拠が提出され得たとは考え難いところであつて、所詮、令二四条二号に該当しないとの立証が成功する余地はなかつたものということができるから、右の違法は判定の結果に影響を及ぼすことはないというほかなく(施行規則三五条一号参照)、そうとすると、特別審理官の判定についての法務大臣の裁決は適法であつて、右裁決に基づく主任審査官の退去強制令書の発布も適法というべきである。また、右の手続違背は、適法に発付された収容令書に基く収容自体を違法とする事由ともなり得ないものというべきである。

したがつて、原告の主張二4はいずれにしても採用することができない。

5  査証取消処分の違法性の有無について

査証に関する事務は外務省の所管するところであり、その権限行使に関し外務大臣は令に定める入国拒否事由、退去強制事由等を斟酌しつつ、その裁量により査証を発給し、またはこれを取消すことができるものと解されるところ、外務大臣の原告に対する前示査証取消処分の契機となつた退去強制令書発布の基礎事実(令二四条二号該当)に誤りはないことは前示したところであり、またたとえ原告が前示の退去強制令書発布処分取消訴訟を維持していたとしても、勝訴し得る状態にあつたものと認める余地もなく、原告主張のごとく、外務大臣において右訴訟の勝敗に拘らず原告の上陸を妨げることを意図して右取消処分の挙に出たことを認めるには足りないから、いずれにせよ外務大臣の査証取消処分を違法ということはできない。

したがつて、原告の主張二5は採用することができない。

三以上によれば、原告の主張二を理由とする三の損害についてはいずれもその賠償請求を認容するに由ないものといわなければならない。

四よつて、原告の本訴請求はすべて失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(内藤正久 真栄田哲 田中壮太)

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